[regeneration]







いのち は めぐる
せい と し を



その行為に疑問など無かった。
白は祝福し、黒は刈り取る。
背に翼を持つ者は人の目に映ることなく人の間をすり抜け、白は生まれる命を祝福し、黒は死に逝く命を召す。
それはこの“世”というものができた頃からの流れであり、どれだけ人が自然を壊そうとも、同族同士で殺し合いをしようとも、他の種族を絶滅に追いやろうとも唯一変えられないもので。

そして、人は。

白い翼を持つ者を“天使”と呼び。
黒い翼を持つ者を“悪魔”と呼んだ。





白は祝福し、黒は刈り取る。

横たわった身体からゆっくりと命が浮かび上がってくる。
その命と肉体という殻を繋いでいる細い糸―――これは命と肉体を結ぶ寿命であり、歳月を過ごすと共にだんだんと細くなる―――を見れば、尽きゆく寿命を示すように糸は細さを増していく。

白は祝福し、黒は刈り取る。

けれど、刈り取るタイミングはかなりシビアだ。
早すぎず、遅すぎず。
最後まで肉体という苗床の栄養を吸わせてから狩らなければならない。早ければ次の命がそれだけ早く弱い時間を過ごすことになるし、遅ければ命が形を失い、世界に散ってしまう。
別に命が世界に散ったとしても、それは草花や木々に代わり、無為になるわけではないが、それでは世界を支えきれなくなってしまう。

そう―――世界は、生きている命が支えるものだから。

組んでいた手をとき、静かに指先を伸ばして意識を集中すれば、意思に従ってふわりと青銀の光が覆う。
そして、沈痛な面持ちでベッドに横たわる者を見つめる人間たちに目もくれず近づくと、打ち払うように手刀を一閃した。
 「おやすみ。」
小さな、別れの言葉と共に。



 「よう。」
 「………」
掌の中の魂。
今、刈り取ったばかりのそれに再び生まれ出でるための呪をかけようと薄く開いた唇は詞を紡ぐことなく閉じられ、声を向けた相手を一瞥した瞳が再び魂に向けられたとき、朗々たる詞が零れた。
薄い唇から零れる、力ある詞。
世界の根源に通ずる道。
休むことなく回り続ける歯車の一翼を担うために。
ふわり、と手にしていた魂が浮かび、くるくるとダンスを踊るように回り出す。それを助けるように詞は紡がれ、秀麗な顔に長い睫が影を落とすほどにその瞳が細められた瞬間、眩い光と共に魂はいずこかへと飛び去った。
 「――後は貴様らの仕事だ。」
何の感情も含まない硬質な声が傍らに突然現れた白き翼の者へと注がれる。
 「へ、あ、まあ、そうだけどさ。そうじゃなくて、オレ、アンタに用が―――」
関係ないとばかりに黒い翼が風をはらみ、その痩躯が浮かび上がった。
 「ちょ、…オイッ!」
 「仕事もこなさず油を売っていていいのか? ―――…フ、どうやら天使はそれでも許されるほど偉いらしいな。」
 「んなッ!? 何だと!!」
 「………」
あまりにもあんまりな物言いに憤慨した天使が噛み付くのを興味なさそうに一瞥した悪魔は、憤慨してぴこぴこと両手を上下させて文句を並べる天使に構うことなく、任務終了の報告をするためにその場を後にするのだった。


―――彼が去った後、“名前を聞く”ことができなかった自分に凹んだ天使がいたことなど、悪魔は知るよしもなかったが。





高すぎる天井の回廊を歩けば、石畳とブーツの立てるカツンカツンとした音が、寂しげに木霊した。誰が見ている訳でもないのに背筋をピンと伸ばし、どこであっても隙を作らぬその姿はあまりにも孤独。だが、そのことに周囲は気付いても、当人だけが気付かない。

―――悪魔として命を狩るにはあまりに優しすぎる心は、壊れることをしない変わりに凍り付いてしまったから。

 「失礼します。」
回廊の先にある質素でありながら品の良い扉をノックして、入室の許可とともに部屋に入る。そこには、天井につくと思えるほどの膨大な書類が山となっており、中央の机ではそれを凄まじいスピードで処理している劉鳳の上司がいた。
 「先日の件が処理できましたので報告書をお持ちしました。」
 「ご苦労。…そちらの一番上に置いてくれ。」
 「はい。」
机にほど近い書類の山の一番上に、それを崩さぬようにそっと報告書をのせる。
その山の高さと隊長であるジグマールの処理能力から考えると、今から24時間以内にはこれが処理されるだろう。
 「…ふむ、ではこれから48時間の休息を命じる。」
 「48時間…」
 「不満かね?」
 「いえ。―――随分といただけると思ったものですから。」
劉鳳の言葉に、ジグマールはふむと考える。確かに、劉鳳の言葉通り、休息時間はその者が担当した報告書が自分の手によって処理される時間に相当するのだが。
 「…君は働き過ぎだ。少しは休みたまえ。」
 「………」
 「余裕を持って仕事に当たるというのも必要なことだと思うが?」
 「…了解しました。」
かつんとかかとをつけて敬礼すると、そのまま踵を返して部屋を後にしようとした劉鳳の背にジグマールの声がかかる。
 「そういえば劉鳳。―――君は今回の仕事で天使に会わなかったかね?」
 「天使…。ああ、仕事を常にさぼっていそうな無駄に馴れ馴れしい者なら見ましたが。」
まるで、路傍の石を語るように感情のこもらない言葉で告げる劉鳳に、ジグマールは内心で頭を抱えた。頑なな劉鳳にいきなりフレンドリーに接するとは。天界から是非彼付きになりたいと希望を持っている者がいると知り、対面させるために劉鳳の仕事場所を教えたのだが、どうも裏目に出たような気がする。

―――本来、天使と悪魔はコンビを組んで仕事をこなす。

そして、天使は心の内で悪魔を蔑み、悪魔は心の内で天使を嫌悪する。
それは、綺麗すぎるものに対する憧憬であり、強いものに対する賞賛だ。互いに必要な力であり存在であると知りながら、生と死という相反するものを司るが故に二つの種は歩み寄ることをしない。そこには少なからず、人間という種の持つ宗教観―――天使は好意的に受け入れられ、悪魔は嫌われる―――が影響されていたけれど、仕事上、互いが側にいた方が何かと都合がよいから、天使と悪魔は罵りあい、蔑みあいながらも側にいるのが一般的だ。まあ、実際は、そこにあるのはただの反目だけでなく、永遠を生きる者の共感と絆があるのだが。
 (ふう、問題だらけだな…)
話が逸れたが、問題は劉鳳だ。彼がずっと組んでいた天使はかなりおおらかな気質で、仕事仕事の劉鳳にも文句一つ言わずに付き合っていた。しかし、その天使と別れてから、表情を崩しもせずに淡々と仕事をこなす劉鳳に、組んだ天使たちはこぞって彼とコンビを解消することを要求した。そう、単純に、彼の冷徹なまでの行動と、強い力に恐怖したのだ。悪魔を蔑んで優越感を満たしている天使が。

―――それ故、劉鳳は今まで一人で仕事をこなしている。

 「それが何か?」
 「ああ、いや。…変なことを聞いたな。気にしないでくれたまえ。」
 「了解。…では、失礼します。」
さっ、とまるで見本のような敬礼をすると、劉鳳が執務室の扉をくぐっていく。
その背を見送りながら、まだまだ山のようにある仕事と解決どころか複雑化した劉鳳の問題にジグマールは頭を悩ませるのだった。



 「この間はどーも。」
 「……貴様か…」
高いビルの上に腰掛けながら、地上を動く人の動きを見ていた劉鳳の前にふわりと白い翼が舞う。革ジャンに薄汚れたズボン。指が切れたグローブを身につけた天使は、白とブルーを基調にした長衣を身に纏う劉鳳より、よほど悪魔らしく見えた。
 「へへ、覚えてたんだな。」
 「馬鹿ではないからな、一度会えば覚える。…それよりも、仕事はどうした?」
 「あ、ちゃんとしてるって。最低限だけどな。」
ちゃっかりと隣に座る男に目を向けながら、劉鳳は天使らしくない言動に目を瞬かせる。
 「最低限…」
 「仕事ばっかじゃつまんねぇって。…オレにはそれよりもアンタに会うっていう大事な用事があるからな。」
 「…何故、俺に会うのが大事な用事なんだ?」
男のいった言葉の中に引っかかるものを感じた劉鳳は、そのままに問いを重ねた。
 「あれ、アンタ聞いてねぇの?」
 「何をだ。」
 「オレがアンタのパートナーになること。」
 「…本当か。いや、そうじゃない、正気か?」
 「大真面目だぜ。…オレはアンタを一目見て“こいつだ”って思った。」



―――綺麗だと思った。

魂を刈り取る青銀の力も。
艶やかな緑為す黒髪も。
しなやかな獣の力強さを秘めた痩躯も。
そして何より―――濡れて光る血石の瞳が。

美しい、と。
何よりも美しい、と。

 『………』

初めてその黒を―――悪魔を見た日。
一目惚れなんて言葉をまるきり信じていなかった筈の自分は壊れて消えた。



 「オレにはアンタしかいねぇって、思った。」
だから、無理を承知でパートナーになることを上司にごり押しした。
こいつが天使連中から嫌われているのも知っている。けれど、それがどうしたというのだろうか。

力が強い?
―――だったら自分も強くなればいい。
死に対して冷静すぎる?
―――あの、血石の瞳があんなにも悲しみを讃えているのに。

あんなに綺麗なイキモノは、天使にも悪魔にも人間にもいない。

 「なあ、アンタの名前、教えてくれよ。」
 「………」
 「オレはアンタと組みたい。っていうか、アンタ以外じゃ嫌だ。」
真摯な琥珀の瞳。
その眼差しにこもる熱に背筋をぞくぞくとしたものが走る。
 「オレの名前はカズマだ。―――アンタは?」
天使や悪魔にとって、名を告げるというのは一種の制約だ。
名前は自分を形作り、縛るもの。
互いを互いの名で縛り、裏切らぬことを誓う。
悪魔では上司しか知らず、天使では一番最初に組んだ者しか知らぬ自分の名。
 「俺は…、俺は劉鳳だ。」
艶やかな唇が自らの名を告げた瞬間、劉鳳の背から飛び出した翼がばさりと羽ばたき、彼の姿は一瞬でカズマの前から消えてしまったけれど、耳に届いた彼の名は嘘じゃない。

―――劉鳳。

 「よっしゃああぁぁッ!!!」
彼の名を心に刻みながら、喜色満面の笑みでカズマは拳を振り上げるのだった。





カズマと出会ってからは本当に楽しかった。
初めて天使と組んだ時はまだまだ自分は未熟で、状況についていくのが精一杯だったから楽しむなんてできなかった。楽しいなんて思えなかった。そして、最初に組んだ天使と別れてからは、敵視されること、蔑まれること、反目されることが当たり前になって、全てが凍り付いた。
だから、何の隔てもなくごく自然に接してくれるカズマとともにいるのは楽しかった。

ああ―――できればずっと一緒にいたかった。

天使も悪魔も永遠の命を持っているけれど、その生は決して永遠じゃない。
ある一定の期間、ある一定の回数の任務をこなすと、自分たちは浄化のための眠りに入る。それは天使にとっては力の回復であり、悪魔にとっては死の穢れを払う時間。全てを真っ白にして自分という存在が新しく生まれ変わる。
そうしなければ、狂うほど。
そうしなければ、摩耗するほど。
それほどの長い時間を自分たちは生きるのだから。

だから、これは必要なことで。
だから、これは必然なことで。

でも、それでも一緒にいたかった。
“俺”が“俺”として、共にいたかった。



地にあった建物が天へと延びる。
それは、まるでバベルの塔のように。
天にあった星の輝きは消え、夜の闇を地上の星が裂く。
夜の闇は人を怯えさせるものではなくなり、けれど、人は本能的に闇を恐れる。
綺麗なものばかりなく、もしかしたら汚いものばかりが多いというのに。
それでも、それだからこそ人の世は美しいと―――思う。
 「劉鳳。」
 「…来たか。」
 「アンタがオレを呼び出すなんて珍しいなぁ。」
ふわりと体重を感じさせない動きで劉鳳が立つビルの屋上へと降りてきたカズマは、嬉しそうに笑いかけてくる。
 「ああ、そうだな。」
 「何か用なのか?」
およそ天使らしくない天使。
ああ、ならば、自分も悪魔らしくない悪魔なのだろう。
だからこそ、一緒にいられた。
―――だからこそ、一緒にいたかった。
 「…カズマ、お前にパートナーの解除を求める。」
 「………あ?」
 「パートナーを解除して欲しい。」
静かな。あまりにも静かな血石の瞳に、ぽかっと口を開いたままの阿呆面した自分が映る。何の冗談、と笑い飛ばそうとして、その瞳の静けさに息を呑み、それが冗談でも何でもないことを実感する。
 「な、んで?」
 「………」
 「何でだよ、劉鳳ッ!」
楽しそうに笑い、怒り、これ以上もないほどに劉鳳は生きていたのに。
自分の隣で、生きていたのに。
ガッ、と劉鳳の肩を掴む。その強さに劉鳳の秀麗な顔が歪んだが、手は払いのけられることはなかった。
 「オレとじゃ駄目だったってのか? ―――アンタが楽しそうに笑ってたのも、オレと一緒にいて嬉しそうだったのも、全部、全部違うってのか!?」
 「違わない。」
ああ、違うものか。
一緒に。
一緒にいたかった。
 「じゃあ、どうしてだ!」

ただ、ただ―――出会うのが遅すぎただけだ。

 「…俺は、明後日には、浄化の眠りに……入る。」

 「…え?」
 「浄化の眠りに入るんだ。…だから……」
 「マジ、かよ…」
浄化の眠りは永遠に生きる自分たちの救いであり呪いだ。
一旦、眠ってしまえば、抱いていた何もかもは消えて無くなる。
怒りも、悲しみも、喜びも、楽しさも―――好意も。
全てが洗い流されて、同じ姿、同じ形を持った違う存在になるのだ。
 「は、はは、何だよ、ソレ…」
 「済まない。…俺はカズマに会うまで一人で、ずっと一人で、仕事をすることだけが存在意義だった。きっとそのせいで汚れを身に纏うのも早かったんだろう。」
 「………」
 「だから、カズマ…」
 「嫌だね。」
 「…何……」
信じられないことでも聞いたように劉鳳は目を瞬かせた。
 「パートナーを解除するつもりはねぇよ。…アンタが眠りから覚めたら、また組んで貰う。」
 「何を馬鹿な…、例えお前がそう望んでくれたとしても、俺はお前のことを忘れているんだぞ?」
 「それがどうした。…最初は誰だって知り合うことから始まるんだろ。アンタが忘れてもオレが覚えてる。それに…」
肩を掴んでいた手を放して、劉鳳の細い肢体を両腕の中に閉じこめる。
 「…カズマ?」
 「アンタは、きっと忘れねぇよ。オレのパートナーだったことも。オレがアンタを好きなことも。それに―――劉鳳がオレを好きなことも。」



―――嘘だ。



 「馬鹿が…」
嘘だ。
嘘だ。
…嘘だ。
“忘れない”なんて不可能だ。
浄化の眠りに入れば、自分を構成する全ては消され、再構成される。姿形が同じだけの見知った他人になるのだ。例え、忘れたくない想いがあったとしても、それは自分の中からごりごりと削り取られてしまう。
 (それでも、嬉しいと思うのは…間違いじゃない)
 「バカで結構!」
 「…本当に馬鹿だ……」
抱き込まれていた腕にほんの少し力を入れてカズマの胸から離れると劉鳳はそっとカズマに唇を寄せた。



惜しげもなく晒された肌を辿る無骨な指。どこか神妙で厳かですらあるそれに苦笑する。人とは違う生き物である自分たちだが、結局行き着いたところは人と同じ情交だとはかなり笑えるところだ。これが背徳だと分かっている。天使も悪魔もこのような衝動を持っていないことは知っている。けれど、忘れ得ぬ何かを求めれば自然と触れ合い、情を交わすことになった。
 (背徳だ)
裏切りだ。
けれど、それならば―――罰は自分だけに降ればいい。
カズマはただ自分の望みを叶えてくれたに過ぎないのだから。
 「っ、ん…」
白く引き締まった足をなぞり、緩く立ち上がっているそれに触れる。ぴくりと身体を揺らして小さな声を口にした劉鳳は、それでも厭うことなく動きを甘受した。
 「あ、ああ…はぁ…」
とろとろと零れる蜜を指に搦め、全体に塗すように扱く。陸に上がった魚のようにびくびくと跳ねていた身体は留まるところを求めるようにカズマの背に腕を伸ばす。そんな劉鳳の背を、彼を追いつめるのとは別の手で慰めるように撫でてやれば、ぎゅっと閉じられていた瞳はゆるゆると開き、その濡れて艶を増した血石の瞳がカズマを映して笑った。

許されている。
そして、求められている。

唯一人―――何を代償としても欲しかった存在に。

 「劉鳳…ッ!」
 「ひ、ぁああ! カズ、カズマ…ァ!!」
劉鳳に絡んでいた指が動きを早め、耐える間も与えずに吐精させる。
白濁とした蜜を受け止めたカズマは、それを潤滑剤として劉鳳の奥へと指を伸ばした。
 「―――ッ!? あ、うぁ…」
身体が開かれる感覚。
恐怖と嫌悪感に自然と息を詰めた。
 「っ、アンタが辛いだけだから力抜けって…」
 「うう、ふぅ…あ、ああ……」
忙しなく胸を喘がせて息を吐く。怖い。怖いけれど、でもそれ以上に欲しいと思う。忘れられない何か。忘れたくない何か。例え記憶が失われても覚えていられる何かが欲しい。
やがて、抵抗もなく埋められた指が、濡れた音を立てて蠢く。その全てを受け止めていた劉鳳は、身体の奥底から沸き上がるものに喘ぎ、解放を強請った。
 「んぅ、ふああ…カズマ、も、…いいからッ!」
きて―――と艶やかな唇が求めを形作った瞬間、身体の中心に信じられない衝撃が走った。
 「―――! あ、あああ…ッ、は、っあぁ…やぁッ…!!」
痛みは疼きに取って変わって、苦しさは喘ぎに変わった。
激しい動きに壊れそうな意識と身体を引きずって、痺れるような悦楽に酔う。
 「かず、かずま…、あぁ、ふああ……かずまぁ…」
 「劉鳳…、劉鳳…―――アンタが好きだ…」
 「あ、あああ―――ッ!!」

もっと早く出会えば良かった。
もっと早く気持ちを伝えれば良かった。
でも、でも―――幸せだから。

だから、これは間違いなんかじゃ―――ない。









―――すきだ。



 「誰?」
くつおとにふりかえった。
そのさきにいるのは、ぼくとおなじぐらいのとしのひと。
 「よう、ハジメマシテ。―――オレはアンタと組むことになった…」
つよいひかりをもったこはくのひとみ。
ちょっとけいはくそうなものいい。
 (でも、俺は■■■が優しいことを■っている)
…?
あれ、ぼくはいまなにをおもった?
―――ぼくは。
 「―――マ。」
 「…え……?」
ぼくは―――あなたをしっている?
 「………カズマ。」
しらない。
しらない。
しらない。
でも―――しっている。





―――すきだ。
ぼくはそのことばを、あなたをしってる。



END